レシピ&エッセイの白井操クッキングスタジオ

料理研究家・白井操の神戸発レシピやエッセイがたっぷり!料理講習会のイベントや主な著書なども掲載中。男の料理や食育、シルバーカレッジ情報も発信中。

操の「へぇ~!」な雑学

仏様の後背を持った花たち

今やゴールデンウィークまっただ中。今年はどこにお出かけかな。
えっ、どこにも行く予定はないって! そんな寂しこと言わないで、久しぶりに夫婦でお寺巡りなどは如何かな?

さて、お寺のご本尊の仏像を拝見すると、仏様の後ろに衝立のように立っているものがあるだろう? それは後背って言うんだけど、仏様が放つ後光を表したものなんだって。
 東寺の不動明王

ところで、植物にも仏様の後背のように、花の後ろや周りに衝立のようなものを付けているのがあるんだけど、みんなは思いついたかな?

おっ、さっそく思いついた人もいるようだね。そう、ミズバショウやカラー、アンスリウムなんかがそうだね。それらの花の構造をよく観察してごらん。花茎の先端にこん棒状のものがあり、その周りを取り囲むように色づいた、一枚の花びらのようなものが取り囲んでるよね。アンスリウムは取り囲まずに、後ろまたは下側に平べったく立っているけどね。こん棒状のものを仏様としたら・・・、ね、色付いた一枚の花びら状のものが後背に見えるだろう?
 ミズバショウ
 カラー
 アンスリウム

この一枚の花びら状に見えるものを、植物学の世界では仏様の後背に見立てて、「仏炎苞(ぶつえんほう)」って呼んでるんだ。なかなかいいネーミングだろう? この「仏炎苞」は名前のとおり「苞」の一種で、サトイモ科の植物に特徴的なものなんだ。えっ、「苞」って何だって? じゃあ、もう一度おさらいしておこうか。「苞」とは、花や花の集まりである花序の基部にあって、蕾の時から花を保護している葉が変化したものなんだぞ。 その「苞」が大きくなったり、色付いたりして花びらの代わりに昆虫たちを呼び寄せる役目を果たしているのさ。ほら、ブーゲンビレアやハナミズキ、ポインセチアなどがそうだったよね。覚えているかな?

サトイモ科の花は、「仏炎苞」に囲まれたこん棒の周りにびっしりとたくさん並んでいるんだけど、花びらも萼もなくて、雌しべと雄しべしかないんだ。だから、仏炎苞に花びらの役目をしてもらってるんだぞ。ついでに言っておくと、このこん棒は、花の集まりだから? そう、花序だったな。このように肉厚のこん棒状の表面に花がびっしりと並んでいる花序を、「肉穂花序(にくすいかじょ)」と呼んでるんだ。

 マムシグサ
 スパティフィルム
「仏炎苞」を観賞の対象としている植物は、このほかにもマムシグサやウラシマソウなどのテンナンショウの仲間やスパティフィルムなどの観葉植物などがあるんだ。そして、ついでに言っておくと、みんなの大好きなコンニャクの花もそうなんだよ。
 コンニャク

ブラッシカ・ラバ

タイトルのカタカナを見てピンと来る人は相当植物に詳しい人だけど、みんなはピンと来たかな?
ブラッシカ・ラパとは、Brassica rapa という横文字をカタカナ読みしたものだけど、これはある植物の学名(すなわちラテン語)なんだよ。さて、ある植物とは何だと思う? といわれても分からないよね。では、正解は・・・・・これがなかなか一口では言えない植物なんだ。
実は、このブラッシカ・ラパ Brassica rapa という名前は、西アジアからヨーロッパに自生していたアブラナの仲間の野草に付けられたもので、大麦畑の雑草としてはびこっていたものなんだ。それが農耕文化とともに東方に移動して、漢の時代の中国に渡ると栽培植物として利用されはじめ、その後、ちょう円半島や日本などの東アジアで盛んに品種改良されて、現在に至っているのさ。日本では、弥生時代にはもう既に青菜として利用されていたみたいなんだぞ。
えっ、ところでその植物は何かって? あっ、ごめん、ごめん。肝心の植物を教えるのを忘れていたね。現在の日本には、アブラナをはじめ、菜の花や菜種と呼ばれるものや、白菜、野沢菜、水菜、小松菜、高菜、青梗菜などの葉物野菜、さらには蕪の仲間まで、全てブラッシカ・ラパを改良して作られたものなんだ。ね、なかなか一口では言えないだろう?
 アブラナの花
 白菜
 小松菜
 水菜
 青梗菜
 蕪
 日の菜
花を愛でる菜の花から、油を絞る油菜(菜種)、葉っぱを食べる青菜類、さらには根っこを食べる蕪の仲間まで、アジア人はヨーッロパ人が見向きもしなかった畑の雑草を主要野菜の一大グループに仕立て上げたんだから大したもんだろう?みんながいろんな種類の豊富な野菜を毎日食べられるのも、先人達のお陰なんだから、たまには、古代の先人達に思いを馳せて、よ~く味わって食べてみたら如何かな。
 菜の花畑
因みに、現在の菜種油は、同じブラッシカ属の別種である、セイヨウアブラナ Brassica napus から採油していて、さらに、早春にあちこちで見られる菜の花畑も、セイヨウアブラナに置き換わっているらしいぞ。

長命寺と道明寺

長命寺とは、東京は墨田区向島にある天台宗の寺院、一方、道明寺とは、大阪は藤井寺市にある真言宗御室派の尼寺・・・・・。 いざ、東京vs.大阪の対決か? これだけでピンときた人は余程のお寺マニアか和菓子マニアなんだろうな。
はい、じゃあ、ここらで種明かしをしようか。今年の3月6日は二十四節季の「啓蟄」、冬ごもりをしていた虫たちもそろそろ這い出してくる頃かな。そして、そろそろ桜前線が話題に上る季節になってきたね。
桜と言えば、花より団子のみんなは、いの一番に桜餅を思い浮かべるだろう?さて、この桜餅、果たしてみんなはどんなものを思い浮かべてるんだろう?
  ①桜餅(道明寺餅)
 ②桜餅(長命寺餅)
関西の人は、桜餅と言えば、写真①にあるような粒々感の残った餅にこしあんを包み、塩漬けした桜葉で覆ったものを思い浮かべただろう。ところが東京では、これがちょっと違っていて、写真②にあるように、小麦粉を水溶きしたものを薄焼きし、それでこしあんをくるんだものの上に塩漬けした桜葉で覆ったものを桜餅と呼ぶんだよ。どちらも、最後に桜葉で覆うのと、餡がこしあんというのは共通してるけど、餅の部分が全く違っているよね。これが東西の文化の違いって言うもんなんだ。

江戸時代に生まれた桜餅は、もちろん京で生まれて江戸へ下ったんだけど、上品すぎてお江戸の庶民の口には合わなかったのか、新たな桜餅をつくったんだってさ。元々長命寺の門番していた男が、寺の門前で売り出したのが始まりらしい。その頃は、隅田川の桜の落ち葉を醤油漬にして餅に巻いて墓参の人をもてなしたんだそうな。これをお寺の名前にちなみんで長命寺餅と呼び、これが後に江戸では広く桜餅と呼ばれるようになったんだぞ。じゃあ、京から下って来た桜餅はどうなったかって? 長命寺餅を桜餅と呼ぶようになったことから、本来の桜餅と区別する必要が出てきたんだけど、京から下った本来の桜餅は、餅の部分に道明寺粉を使っていたので、道明寺餅と呼ぶようになったんだそうな。えっ、道明寺粉って何かって? 道明寺粉とは、水に浸した餅米を蒸して乾燥させ荒く挽いたもののことで、糒(ほしいい)の一種なんだぞ。藤井寺の道明寺で最初に作られたことから、道明寺粉と呼んでるのさ。
これで、今回のテーマの意味が理解できたかな? たまたまどちらもお寺の名前が付いているけど、狭い日本でも東と西では桜餅一つ取ってみても全く違うってことを分かってくれたかな。

では桜餅ついでにもう一つ、この塩漬けの桜の葉はどんな桜か知っているかい? え~っ、ソメイヨシノだって??? それは、ブ~~~だ! 桜の葉の塩漬に使う桜はオオシマザクラっていう種類なんだぞ。良く覚えておきなさい。
 オオシマザクラの樹形
 オオシマザクラの花
 オオシマザクラの葉

どうしてオオシマザクラかって? 塩漬けの桜葉から馥郁と漂うあの香りはクマリンという化学物質で、葉を塩漬けにすることで初めて香りが出てくるんだ。桜の中では、オオシマザクラが一番香りが強いのと、葉裏に毛が生えていないので口当たりが良いから使われているのさ。このオオシマザクラの塩漬けは、全量が伊豆で作られていて、なかでも松崎町が70%以上のシェアを占めているんだぞ。 さあ、今回もイイ勉強になったな!
 オオシマザクラの葉を50枚重ねたもの
 葉の束を漬け込む様子