レシピ&エッセイの白井操クッキングスタジオ

料理研究家・白井操の神戸発レシピやエッセイがたっぷり!料理講習会のイベントや主な著書なども掲載中。男の料理や食育、シルバーカレッジ情報も発信中。

操の「へぇ~!」な雑学

長命寺と道明寺

長命寺とは、東京は墨田区向島にある天台宗の寺院、一方、道明寺とは、大阪は藤井寺市にある真言宗御室派の尼寺・・・・・。 いざ、東京vs.大阪の対決か? これだけでピンときた人は余程のお寺マニアか和菓子マニアなんだろうな。
はい、じゃあ、ここらで種明かしをしようか。今年の3月6日は二十四節季の「啓蟄」、冬ごもりをしていた虫たちもそろそろ這い出してくる頃かな。そして、そろそろ桜前線が話題に上る季節になってきたね。
桜と言えば、花より団子のみんなは、いの一番に桜餅を思い浮かべるだろう?さて、この桜餅、果たしてみんなはどんなものを思い浮かべてるんだろう?
  ①桜餅(道明寺餅)
 ②桜餅(長命寺餅)
関西の人は、桜餅と言えば、写真①にあるような粒々感の残った餅にこしあんを包み、塩漬けした桜葉で覆ったものを思い浮かべただろう。ところが東京では、これがちょっと違っていて、写真②にあるように、小麦粉を水溶きしたものを薄焼きし、それでこしあんをくるんだものの上に塩漬けした桜葉で覆ったものを桜餅と呼ぶんだよ。どちらも、最後に桜葉で覆うのと、餡がこしあんというのは共通してるけど、餅の部分が全く違っているよね。これが東西の文化の違いって言うもんなんだ。

江戸時代に生まれた桜餅は、もちろん京で生まれて江戸へ下ったんだけど、上品すぎてお江戸の庶民の口には合わなかったのか、新たな桜餅をつくったんだってさ。元々長命寺の門番していた男が、寺の門前で売り出したのが始まりらしい。その頃は、隅田川の桜の落ち葉を醤油漬にして餅に巻いて墓参の人をもてなしたんだそうな。これをお寺の名前にちなみんで長命寺餅と呼び、これが後に江戸では広く桜餅と呼ばれるようになったんだぞ。じゃあ、京から下って来た桜餅はどうなったかって? 長命寺餅を桜餅と呼ぶようになったことから、本来の桜餅と区別する必要が出てきたんだけど、京から下った本来の桜餅は、餅の部分に道明寺粉を使っていたので、道明寺餅と呼ぶようになったんだそうな。えっ、道明寺粉って何かって? 道明寺粉とは、水に浸した餅米を蒸して乾燥させ荒く挽いたもののことで、糒(ほしいい)の一種なんだぞ。藤井寺の道明寺で最初に作られたことから、道明寺粉と呼んでるのさ。
これで、今回のテーマの意味が理解できたかな? たまたまどちらもお寺の名前が付いているけど、狭い日本でも東と西では桜餅一つ取ってみても全く違うってことを分かってくれたかな。

では桜餅ついでにもう一つ、この塩漬けの桜の葉はどんな桜か知っているかい? え~っ、ソメイヨシノだって??? それは、ブ~~~だ! 桜の葉の塩漬に使う桜はオオシマザクラっていう種類なんだぞ。良く覚えておきなさい。
 オオシマザクラの樹形
 オオシマザクラの花
 オオシマザクラの葉

どうしてオオシマザクラかって? 塩漬けの桜葉から馥郁と漂うあの香りはクマリンという化学物質で、葉を塩漬けにすることで初めて香りが出てくるんだ。桜の中では、オオシマザクラが一番香りが強いのと、葉裏に毛が生えていないので口当たりが良いから使われているのさ。このオオシマザクラの塩漬けは、全量が伊豆で作られていて、なかでも松崎町が70%以上のシェアを占めているんだぞ。 さあ、今回もイイ勉強になったな!
 オオシマザクラの葉を50枚重ねたもの
 葉の束を漬け込む様子

辛夷と田虫葉

さて、またまた漢字の読み問題だけど、このタイトルの漢字熟語を読める人はいるかい? 前者は読める人が結構いるようだね、そう、コブシと読むよね。じゃあ、後者は? これは読み方は難しくなくて、漢字をそのまま読めば良いんだけど・・・、そう、タムシバと読むんだよ。
じゃあ、コブシとタムシバって何だい? あれっ? タムシバが分からないって? まあ、普通はそうだろうな。 コブシはみんなも良く知っているとおり、早春に白い花を咲かせる花木で、庭木や街路樹にもよく使われているよね。
 コブシ

じゃあ、タムシバは? タムシバも早春にコブシとそっくりの白い花を付ける花木なんだけど、まず庭木として植えている人はいないだろうな。でも、みんなはこのタムシバをよく知っているはずなんだけどねぇ。
神戸や阪神間に住んでいる人なら、春先ソメイヨシノの咲くちょっと前に六甲山地を見ると、そこここに枝先に白い花をたくさん付けている落葉樹が点々と山腹にあるのを見つけることができるんだけど・・・、見たことないかなぁ、遠目でも良く目立っているぞ。実は、これこそがタムシバなんだぞ。この木をコブシだと思っている人が結構いるんだよね。でも、六甲山地にはコブシは自生していないからね。
 六甲山地のタムシバ

さて、コブシっていう名前はどうして付いたか分かるかな? 実はコブシの花が終わった後にできる果実の形から来ているんだよ。コブシの果実を知っている人は? ありゃ、花は知っていても実を知らない人が多いみたいだね。
 コブシの果実
写真のようなボコボコとして膨らみのある果実を、人の手の拳に見立てた訳なんだ。拳に似ているからコブシって言う名前になったんだけど、全くそのままだね。秋には、この拳状の果実の表面が割れて朱赤の種子が顔をのぞかせるのさ。
 果実が熟して顔を出した種子

じゃあ、もう一方のタムシバはどうしてこんな名前になったのかって? タムシバとは、もともと「噛む柴(カムシバ)」と呼ばれていて、葉を噛むと甘い味がするためにこの名前がついたんだ。それが次第に訛っていき、「タムシバ」となったと言われているんだ(もちろん、漢字は後で当てたんだけどな)。
花だけ見ると、コブシも、タムシバも大変よく似ているけど、決定的な違いがあるから、それを覚えておくと知ったかぶりして自慢できるぞ。その決定的な違いとは、花の下に葉が一枚付いているのがコブシで、葉が全くないのがタムシバなんだ。良~く覚えておくんだね
 コブシの花(花の下に葉が1枚)
 タムシバの花(花の下に葉がない)

楮、三椏、雁皮

さあ、みんなはこのタイトルの漢字が読めるかな? 我が輩と同年代のご年配の方なら読める人もいるだろうけど、普段、滅多に見かけない漢字だからねえ、読めなくても当然だろうね。 これは、順にコウゾ、ミツマタ、ガンピと読むんだ。 おっ、読みを聞いて、今回の話の内容が分かったようだね。そう、今回は「和紙」の話をしようと思っているんだ。
紙というものは、羅針盤、火薬、活版印刷と並んで、古代中国の四大発明の一つと言われているけど、みんなはそれは知っているかな? さて、その紙だけれど、みんなは蚕の繭から絹糸を取ることは知っているよね。 古代中国では、絹糸にならないような屑繭の使い道として、その懸濁液を簀で薄く漉いて乾かしたものに「紙」という字を当てたようなんだ。だから、「紙」という漢字は、編(へん)に繊維を撚り合わせたものの象形文字である「糸」が使われているのさ。 因みに旁(つくり)の「氏」という字は、匙の象形文字で、平らなことを表すんだってさ。 また一つ賢くなったなぁ。

さあ、漢字の話はそれくらいにして、紀元前200年頃に中国で発明された紙が、朝鮮半島を経由して日本に導入されたのは西暦600年頃だそうで、日本製の最古の紙はコウゾを原料として作られたことが分かっているんだ。 さてこのコウゾと言う植物は、製紙技術とともに大陸から導入されたもので、ヒメコウゾとカジノキという、ともに紙の原料として使われてた植物の雑種なんだぞ。だから自然のものではないんだけど、今では日本の野山に普通に自生しているんだ。でも、コウゾとカジノキは区別がつきにくく、それほど厳密に区別する必要もなかったみたいで、両者をひっくるめて大まかにコウゾと呼んでいるようなんだ。
コウゾという植物は、クワ科に属するんだけど、葉の形が様々で、これが同じ植物の葉かと思うくらいバラエティに富んでいるんだ(写真参照)。葉の写真を見れば、見たことがある人もいるんじゃないかな。

様々な形を表すコウゾの葉

次に、ミツマタという植物は、そろそろ香りを楽しむ季節になったジンチョウゲの仲間で、この3種の中では、おそらくみんなが一番良く知っている植物じゃないかな。花が綺麗なのと樹形が美しいので、庭木として植えている人も多いからね。ミツマタは、その名前の通り、枝分かれする際にほぼ必ず三つ叉になるところから名付けられたんだ。これも、中国南部の原産で、紙漉きの技術とともに日本に導入されたようだけど、今では日本全国の林床に自生しているんだ。特に、増えすぎて農作物被害をもたらすことで問題になっている鹿が嫌って食べないことから、最近、急速に増えていると言われているんだ。
ミツマタから作られる紙は、繊維が繊細で短いことから、きめの細かい表面が滑らかな紙ができることから、日本の紙幣の原料として使われているんだぞ。
 ミツマタの花
 ミツマタの枝別れ
 ミツマタの夏の姿

さて、最後のガンピだけれど、この植物を知っている人は少ないだろうね。栽培が難しく、ほとんど野生のものを採取していることから、量も少なくコストもかかってしまうんだ。ただ、繊維が非常に細かく短いので、高級和紙の原料として使われているんだけど、野生のものが絶滅危惧種などに指定されている地域も多くて、原料を集めるのに苦労しているようなんだ。
 ガンピ
兵庫県内にも、多可町に「杉原紙」という伝統的な和紙があって、今でも栽培したコウゾを原料として、手漉きで生産されているから、是非その現場を見学してほしいな。もちろん紙漉き体験もできるからね。良い経験になると思うよ。
 杉原紙研究所
 杉原紙研究所へのアクセス