レシピ&エッセイの白井操クッキングスタジオ

料理研究家・白井操の神戸発レシピやエッセイがたっぷり!料理講習会のイベントや主な著書なども掲載中。男の料理や食育、シルバーカレッジ情報も発信中。

操の「へぇ~!」な雑学

いずれピーマン、パプリカ、唐辛子

「ムッシュ・フルーリの小さなお話のタネ」
ムッシュ・フルーリは植物にとても詳しい白井の知恵袋ともいえる方。知っているだけで道端の草花や公園の並木など見慣れた季節の風景がキラリと輝く、楽しいお話のタネをどうぞ。
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しばらく猛暑が続いてるけど、みんなは大丈夫? 夏バテしてないかい?
さて、夏の野菜の代表格と言えば? そう、ピーマンだね。 えっ、ナスだろうって? まあ、ナスも夏野菜の代表だけれど、今回はピーマンの話をするぞ。

ピーマンと言えば、昔から子供嫌いの野菜のトップに君臨しているんだけど、あの独特の香りと苦み、大人にはあれが美味しさの素なんだけどな。最近は子供ピーマンなんてのが出てきて、あの香りも苦みなくて甘みが強い品種で、子供達も喜んで食べるそうだな。
 ピーマン

ピーマンに似ているけど、色と大きさが違うパプリカって言うのもあるよね。これは、肉厚で甘みがあるのでピーマンほど嫌われていないみたいだな。
 パプリカ(カラーピーマン)

日本に昔からある(と言ってもせいぜい400年ほど前くらいからだけどな)唐辛子もピーマンの仲間だけど、辛みのないシシトウや甘唐辛子って言うのもあるよな。
 シシトウ
 伏見甘唐辛子

さあ、色々とピーマンの仲間が出ていたけど、ここでちょっと整理しておこうか。では、結論から言うと、ピーマンも、唐辛子も、甘唐辛子も、パプリカも、全て中南米に自生している学名をCapsicum annuum と言うトウガラシから育成されたものなんだぞ。

あのアメリカ大陸発見で有名なコロンブスが、インドの胡椒を求めて大航海をしていたところ、カリブ海の西インド諸島に到着。アメリカ大陸をインドと勘違いして(インドの西側にあったので西インド諸島と名付けられたんだ)、さらにそこで利用されていた唐辛子を赤い胡椒と間違えたことから、今でも唐辛子をレッド・ペッパー(赤い胡椒 red pepper)と呼んでいるんだぞ。勘違いもここまでくると恐ろしいなぁ。

日本へは、コロンブスがレッド・ペッパーをスペインに持ち帰ってから、僅か50年ほど後にポルトガル人宣教師によってもたらされたらしいぞ。日本に導入されてからしばらくは、食用ではなく、毒薬や観賞用、さらには足袋のつま先に入れて霜焼け止めに使われていたんだとさ。

15世紀末にヨーロッパにもたらされたトウガラシは、瞬く間に世界中に拡散して、その後地域で独特の品種が育成されていったんだな。それが、ピーマンになり、パプリカになり、シシトウになり、甘唐辛子になったんだ。
この唐辛子類は、利用の面から分類すると、辛みがなくて野菜として利用するアマトウガラシ類と辛みを香辛料として利用するトウガラシ類に大きく二分されるんだ。そして、アマトウガラシ類には、ピーマンを代表として、パプリカ、シシトウや、京都野菜の伏見甘唐辛子、万願寺唐辛子などがあり、辛いトウガラシ類には鷹の爪に代表されるけど、日本にも50種類以上の品種があるんだってさ。
 鷹の爪
因みに、激辛で有名なメキシコのハラペーニョはトウガラシ(Capsicum annuum)だけど、同じメキシコのハバネロやインドのブート・ジョロキアは、トウガラシとは別の野生種(Capsicum chinense)から育成された品種なんだ。
ところで、観賞用のトウガラシもピーマンや鷹の爪と同じトウガラシから育成されたものだぞ。もう一つ因みに、ピーマンという名前は、フランス語のPimentが素になっているらしいぞ。
  観賞トウガラシ

 

 ここで、ムッシュ・フルーリからの重大発表じゃ!

もうかれこれ3年ほど、主に花や野菜に関する「へぇ~な話題」を紹介してきたんだが、そろそろ持ちネタも少なくなってきたので、ここらでちょっと趣向を変えようと思ってな。 日頃、白井先生が料理の材料として使っている様々な食材をテーマに、白井先生から疑問な点などのお題をいただいて、それをわしの豊富な知識をもって、紐解いていこうと思っとるんじゃ、楽しみじゃのぉ。

では、乞うご期待!!

沙羅樹

♫ 祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり
沙羅双樹の花の色 盛者必衰の理をあらわす ♬

この一節は、知らない人はいないよねぇ。高校生の古文の授業で暗記させられて、今でも空で口ずさめる人も多いんじゃないの? そう、みんなも良く知っている「平家物語」の冒頭の部分だよね。 じゃあ、この文中にある沙羅双樹っていう木はどんな木か知っているかい? 沙羅双樹っていう言葉は誰しも知っているんだけど、この言葉が何を示しているのか知らない人が結構多いんだよ。 と言うことで、今回は沙羅双樹にまつわる話をするぞ!

 シャーラ(沙羅双樹)
まず、沙羅双樹とは、印度菩提樹、無憂樹とならび仏教三大聖樹(仏教三霊樹)のひとつとされていて、お釈迦様が入滅する際にそばに生えていたとされる木なんだけど、サンスクリット語でシャーラと呼んでいたので、それが仏教伝来と時を同じくして日本に入り、日本語のシャラノキ(沙羅樹)となったようなんだ。ところが、このシャーラはインドの熱帯地域に自生する樹木(フタバガキ科)で、もちろん日本には自生していなくて、中国や日本のような温帯地域では冬の低温で枯れてしまうんだよ。 そこで、その代用として考えられたのが、日本に自生しているシャラノキ(沙羅樹)、すなわちナツツバキなんだ。見かけはちっとも似ているとは思わないんだけど、花色が白くて、花が1日しか保たないこと、それに花首からポトッと落ちることなどから、シャーラをイメージしたらしいんだけどね。
 ナツツバキ(沙羅樹)
 ナツツバキの紅葉

さて、シャラノキことこのナツツバキは、庭木にも良く使うし、全国のお寺にも植えられているから知っている人も多いよね。名前どおり、ツバキ科の落葉高木で6月から7月にかけて白いツバキのような花を咲かせるんだ。日本には、ナツツバキの近縁で葉と花がいくぶん小さいヒメシャラという樹木もあるんだけど、どちらも成熟した木になると樹皮が剝がれて幹肌がツルッツルになって凄く綺麗なんだ。だから、この木をサルスベリって呼んでいる地方もあるらしいよ。
 ナツツバキの樹皮

ついでに、仏教三大聖樹とは、
無憂樹(マメ科):釈迦が生まれた所にあった木
印度菩提樹(クワ科):釈迦が悟りを開いた所にあった木
娑羅樹(フタバガキ科):釈迦が亡くなった所にあった樹木
なんだそうだぞ。
 無憂樹

最後に、お釈迦様が入滅された際に、その四隅に2本ずつのシャーラが生えていたところから、対の木を意味する双樹、すなわち沙羅双樹と呼ばれているらしいぞ。だからシャーラすなわち日本ではナツツバキを指すときには、沙羅樹と書くんだぞ。間違わないようにな!

「恨み」と「秘密」のオトギリソウ

みんなはオトギリソウって言う花を知っているかな? 日本中の山野に自生している植物で、夏になるとスクッと直立した細い茎の先に3㎝ほどの黄色い花をたくさん咲かせるので、庭に植えている人もいるくらいなんだぞ。
 オトギリソウの花

さて、今回はこのオトギリソウって名前の由来を勉強してもらうとするとするかな。ときは平安時代、花山天皇の頃、晴頼という優れた鷹匠が居たんだそうな。晴頼は飼っている鷹が傷つくと、ある薬草を使って傷を直ぐに治してしまっていたんだ。鷹匠の仲間達はその薬草を名前を聞き出そうとしたんだけど、晴頼は頑としてその名を明かすことはなかったんだ。ところが、彼の弟がうっかりとその名前を漏らしてしまったもんだから、さあ大変。晴頼は激怒して即座に弟を斬り殺してしまったんだ。そのできごと以来、秘密の薬草はオトギリソウ、つまり弟切草と呼ばれるようになったんだぞ。しかも、弟を斬ったときに飛び散った血しぶきが、葉や花に転々と黒いシミを残したと言われてるんだ。
 オトギリソウの花の拡大
(弟の血痕とされる黒い点や筋が見える)
 オトギリソウの葉の黒点
 オトギリソウの葉の裏の黒点

どうだい、なかなか怖い話だろう? オトギリソウという名前がこのような言い伝えが由来なので、その花言葉も「恨み」、「秘密」、「敵意」など、あまり好ましいものじゃないんだよな。だから、庭植えするのを忌み嫌う人も居るんだけどね。でも、別名には「鷹の傷薬(タカノキズグスリ)」や「血止め草(チドメグサ)」など、薬草としての効能を意味するものもあるんだぞ。

オトギリソウは文字通り分類学上「オトギリソウ属」に含まれるんだけど、このオトギリソウ属は学名では「Hypericum(ヒペリカム)」と呼ばれていて、欧米ではこの名前で呼ばれる園芸植物が数多くあるんだ。日本にも古くからあるビヨウヤナギやキンシバイなどがそうで、最近では、花じゃなくて果実を観賞するヒペリカムの園芸品種も切枝として花屋さんの店先を賑わせてるよね。
ガーデンや花屋さんでヒペリカムを見つけたら、オトギリソウの名前の由来となった、遠い昔の言い伝えを思い起こしてみるのもイイかもね。
 ギンシバイの花
 ビヨウヤナギの花
 観賞用ヒペリカムの果実

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