レシピ&エッセイの白井操クッキングスタジオ

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西宮阪急「食のミニセミナー」

セミナーレポート 2019.4.26 剣菱酒造株式会社 代表取締役社長 白樫政孝さん

2019/5/9 New

ゲストは剣菱酒造株式会社 代表取締役社長 白樫政孝さん。「創業より500年、変わらないのはこのマークと味です」と白樫さん。「剣菱に3つのルールがあります。一つ目は「止まった時計でいろ」。流行を追うと一歩遅れる。時代の好みに流されず、自分の味を守っているとまたその時代がやってくる。止まった時計は1日2回必ず正しい時を刻むということです。二つ目「お客様からいただいたものはお客様の口に」。頂いたお金は、よい原料の入手や美味しく造る手間に当てること。三つ目は「適正な価格でのご提供」です。身分によって食べるものが大きく変わらないのが日本の食文化。誰でも買える価格にすること。余分な費用をかけないため、営業と広報を置かず、私が兼任しています」と柔らかな物腰で。

試飲は自ら燗をつけてくださった「黒松剣菱」を。「ツーンとくるのは温度かお酒を間違っています。冷酒は香りが高いお酒が作られるようになった30年前ぐらいからの飲み方。落語や歌舞伎でも燗酒が一般的だったことが分かります。飲むスピードが1/7になって体にも優しいんです。」「白樫さんに出会って燗酒を飲むようになりました。じわ~っと体に染みてお酒は薬と言われるのも分かる気がしますね」と白井。「清酒の発見の時期と同じころ、酒に焼酎を入れると、旨みと甘みがあるのに切れる味わいになることが分かり、それが江戸で大流行し、上方の酒としてもてはやされました。醸造アルコールは蒸留回数を増やしアルコール度数を上げた米焼酎のようなもの。化学的な何かを添加しているというのでは全くありません。ぜひ燗で味わってください」と純米酒との違いを。

試食はチーズ・オン・ザ・テーブルの「コンテ12か月熟成」と「エポワス」に生ハムを添えて。常温で「瑞穂 黒松剣菱」の試飲もご用意。「フランスで人気が高くフレンチレストランでよく使われています。フランス向けイベリコ豚PRイベントは瑞穂指定です」。キノコのような香りを持つ瑞穂はチーズやキノコなど山のものと、黒松は磯や醤油の香りで海産物や和の調味料などに合うそう。「似た風味や味わいのものとのペアリングを基本に、色々楽しんでください」と白樫さん。

「お米が大好きな祖父に連れられて小さい頃はよく田んぼでどじょうやザリガニで遊んでいました」。三木市・加東市の20集落と契約し、直営の田んぼもお持ちです。「生き物についた泥が落ちにくいのがいい田んぼ。保水力があって日照りでも乾かないからです。私を田んぼで遊ばせた祖父の意図が30歳になって分かりました」。日本で最初の農水省登録検査機関に。等級検査まで自社で行う酒米へのこだわりも随一。
秋には但馬・丹波・越前・能登から90人の蔵人が集まり、10人の社員とともに酒造りが始まります。満足して働いてもらうために料理人も雇われ、週二回は蔵人が食べ慣れた日本海から魚の取り寄せも。「蔵人さん達もお酒を飲まれるの?」「はい、半年で一升瓶三千本ぐらい」「えーっ!」。

「ウチは機械は使わず人海戦術です。古い味を守ることは古い造りを守ること。米を蒸すのも結露せず余分な水分を吸ってくれる木の甑。暖気樽を作る最後の職人さんに来てもらって社員2人を育ててもらっています。堺に1軒だけ残る桶屋に出向いて3人に勉強してもらい、昨年は木の道具を作る工場を建てました。壊れた機械をばらして修理して藁縄も作れるようにしました。五穀豊穣を感謝して神様に奉納する酒にはビニール製より藁縄がいい。日本の文化と伝統は心に根ざしているもの。ウチが諦めたら終わってしまう、次の世代に残さなければと。古いものは作り続けることでしか伝えられないと思っています。」「なんだかジーンと来ましたね。」「古いタイプの味わいですが、時々思い出して飲んでもらえたら嬉しいです」。ニコニコと和やかな笑顔で、大切なことをしっかり伝えてくださいました。(文:土田)

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